中央アジアのシシカバブー、シャシリクの魅力

突然ですが、中央アジアを構成する旧ソ連の5ヶ国(カザフスタン、キルギスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、トルクメニスタン)はすべて内陸国です。

世界地図を見ると中央アジア“Central Asia”はアジアの中央というよりユーラシア大陸全体の中央といった感じですね

これはこの5カ国に限った話ではなく、南隣に位置するアフガニスタンも内陸、、、

Cacahuate, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

カスピ海(※注:内陸湖です)を挟んで対岸に位置する西隣のアゼルバイジャンも、そのまた西隣のアルメニアも内陸、、、

CIA, Public domain, via Wikimedia Commons

東隣の中国新疆ウイグル自治区も内陸、、、

PANONIAN, CC0, via Wikimedia Commons

周りの国(地域)も巻き込んで、筋金入りの内陸国で構成されていることが分かります。内陸国のことを英語で“Landlocked Country”、つまり陸地に閉じ込められた国と表しますが、ここまでこの表現がぴったり似合う国々は他に無いと言えます。ここまで内陸だと料理はどうなるのか?当然魚より肉!となるわけで、いかに肉を美味く食わすかに全集中することになりますね。(偏見)

UMIT
UMIT

まあ中央アジアでも川魚などは食べているようですがこの記事では目を瞑ることに…


ということで今回は肉を肉のまま食らわす中央アジアの代表的な肉料理・シャシリク(またの名をカバブorケバブ)について説明し、実際にウズベキスタンでいただいたシャシリクについても紹介します!

ロシア料理として有名な串焼き料理「シャシリク」と中央アジアの関係について

ロシア料理がお好きな方であれば、ボルシチやピロシキとともにシャシリク(шашлык、shashlik)のこともお好きかも知れません。この料理はロシア・ウクライナなどの旧ソ連国家の間で親しまれている料理で、一般的には牛や鶏などの肉をスパイス等でマリネし、串に刺して炭火焼きをするバーベキュー料理です。日本で言うところの焼き鳥・焼きとんで、都内に数多あるロシア料理レストランのメニューでもお馴染みだと思います。

Loyna, CC BY-SA 2.5, via Wikimedia Commons

で、このシャシリクですが、中央アジアでも大人気の料理です。というか、このワイルドなビジュアル、個人的にはロシア料理というよりも中央アジア料理と言われた方がしっくりきます。中央アジアよりもロシアの方があらゆる面で知名度が高いため、シャシリクという料理はロシア・ウクライナ等の東欧料理が旧ソ連時代を経て中央アジアに広がったように思えますが、実はシャシリクの語源自体は中央アジアでもおなじみのトルコ系の言葉から来ているようです。その意味では中央アジアにとってのシャシリクとは、トルコ(中央アジア含む)→ロシア(ソ連)→中央アジアと、ロシアを経由した先祖代々の料理にソ連時代に再び邂逅した、ある意味逆輸入的な料理なのかも知れません。

なお、トルコ語で「串」のことを表すシシ(şiş)に、形容詞化する接尾辞であるルィク(lık)を付けて、「串的なもの(串に刺さったもの)」というシシルィク(şişlık)という名称がロシアに伝わり、シャシリク(шашлык)としてソ連を通じてユーラシア全土に広まったという説があるんだそうです。

Shuhrataxmedov, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

実際には今のトルコ共和国のトルコ語というよりは黒海北側のクリミア半島に住むクリミアタタール人(トルコ系)から伝わったとか、コーカサス地方の人々から伝わったとか伝達経由は諸説あるようですが、クリミア半島はかつてオスマン帝国領だった時もありますし、コーカサス地方もトルコとお隣の地域なので、この辺りからトルコ語由来の料理名が広まっていったことは想像に難くないですね。

トルコ料理として有名な串焼き料理「シシケバブ」と中央アジアの関係について

「シャシリク」の語源として登場したトルコですが、当のトルコ共和国では串焼き肉のことをシシケバブ(şiş kebabı)と言います。前述の通り「シシ」は串、「ケバブ」は焼き物全般を指すアラビア語由来の言葉なので、文字通りシシケバブは「串焼き」みたいな意味になるようです。ケバブと言えば日本で大人気のドネルケバブ(döner kebap)もケバブの一種ですし、トルコには色んな種類のケバブがあるようです。

My self, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

で、こんな呼び方してるのはケバブ大好きトルコだけと思いきや、実は遠く離れた中国新疆ウイグル自治区のウイグル人(トルコ系)はジフカワプ(زىخ كاۋاپ zix kawap)と呼ぶようです。「ジフ」は串、「カワプ」は焼き物。流石同じトルコ系民族、なんだかちょっと響きが似てますね。

また、トルコ系ではなくペルシャ系文化となりますが、中央アジアとトルコの間に位置するアフガニスタンやイランでもカバブ(کباب)と呼ぶようです。流石ケバブの国トルコ、こんな遠く離れたイランとか新疆ウイグル自治区にまでケバブの影響力が、、、と思いきや、これも実はシャシリクの逆輸入と似ている状況があるかもしれないのです。

ウイグル料理屋でいただいたカワプ

今では旧ソ連の同調圧力(?)に負けて所謂シシケバブのことをシャシリクと呼び続けている中央アジア諸国ですが、実はウズベキスタンではカバブ(kabob)、カザフスタンではカワプ(кәуәп)、キルギスタンではケベプ(кебеп)という独自の呼び方があるそうです。「ケバブ」という言葉自体は前述の通りアラビア語由来ですが、今より1000年以上も前のイスラム教の伝達とともにケバブの名称もこの地に到達したのかも知れません。

ウズベキスタンで見つけた看板。ҚОЗОНКАБОБ=QOZONKABOB=カザンカバブというのは「カザン」という大鍋で蒸し焼きしたケバブらしいです

そして一般的にはトルコ人はモンゴル高原あたりから何世紀もかけて西進し、今のトルコ共和国あたりまで到達したような話がありますが、この時になって、かつて西のアラビアから持ち込まれたケバブ文化を再び西側に持って行ったのでは…?とか考えてしまいます。そしてソ連の一部となった中央アジア5ヵ国は「シャシリク」の名前が一般的になったものの、そうはならなかった中国新疆ウイグル自治区やトルコ共和国では「ケバブ」の名前が残った…なんて妄想ですが考えると胸が熱くなりますね…

Afghanistan Matters from Brunssum, Netherlands, CC BY 2.0, via Wikimedia Commons

ちなみに、インド料理やパキスタン料理のレストランでシークカバブ(सीख़ कबाब、شیش کباب)というメニューを見たことがあるかもしれません。「シーク」とはトルコ語の「シシ」やウイグル語の「ジフ」と同様に「串」を表します。トルコ語とアラビア語由来の料理名がインドまでたどり着いていることに驚きを禁じ得ませんが、16世紀~19世紀までの間、今のインド・パキスタン・アフガニスタンあたりにまたがって存在したムガル帝国の初代王様は現在のウズベキスタン出身だったようなので、こうやって食文化が広まっていったんだなあと思うと目から鱗が止まりませんね。

日本のインド料理屋でいただいたシークカバブ。基本的にインドのシークカバブはつくねタイプらしい

インド料理として有名な串焼き料理「チキンティッカ」と中央アジアの関係について

インドの話をすると、インド料理屋のメニューには「シークカバブ」と「チキンティッカ」という、必ず見るけど頼まない料理があると思います。チキンティッカ(चिकन टिक्का、مرغ ٹکہ)は何かというと、これもシークカバブ同様のタンドール窯を使った串焼き料理となります。

UMIT
UMIT

ちなみに、インドにおけるシークカバブやチキンティッカは、中央アジア他の炭火焼きスタイルのシャシリクと異なり、長い串に肉を指したり固めたりしてタンドール窯に差し込んで焼いているイメージです。
なので、基本的には串から外してサーブされるように思います。


トルコでは串焼きは全てシシケバブというイメージがありますが、インド・パキスタンではつくねのことをシークカバブ、鶏肉を一口大に切って串に刺したものをチキンティッカと呼び分けているようです。

で、このチキンティッカ、インド・パキスタン独自の料理というイメージしかないのですが、なんとこれもトルコ語由来の言葉なんだそうです。古いトルコ語では、小さな固まりを表す“tike”という単語があるそうで、チキンティッカの「ティッカ」もここから派生しているようです。

Sumit Surai, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

ただし、私が調べた限りでは中央アジアやトルコでチキンティッカ的な名前の料理を見つけることができませんでした。
しかし、それらの国々のお隣に位置するアゼルバイジャンではなんとシャシリクやシシケバブのことをティカカバブ(Tikə kabab)とも呼ぶようです。トルコ版チキンティッカがこんなところにあったとは驚きを禁じ得ません。トルコでは使わなくなった名称を隣国のアゼルバイジャンでは保持していたということなんでしょうかね?

そしてもしこの名称がトルコ語由来というものが本当だとすると、シークカバブ同様にムガル帝国時代にもたらされた名称だったのかもしれませんね。

ウズベキスタンでシャシリクを食した話

さて、シャシリクについての蘊蓄を垂れ流したところで、最後に本場ウズベキスタンでいただいたシャシリクについて紹介します。

私はウズベキスタンの古都サマルカンドの超絶有名観光スポットであるレギスタン広場の近くの「シャロフ・ボボ・オシュハナ(Sharof Bobo Oshxonasi)」というレストランでシャシリクをオーダーしました。

私はラムのシャシリクをオーダーしましたが、炭火で香ばしく焼かれた激ウマ羊肉串でした。巷では「中央アジアのラムは羊臭くなく最高に美味しい」と言われるそうです。が、羊臭さも最高のスパイスと感じる私はにとって、中央アジアのラムが他と比較して臭くないのかどうかがよく分からず、ただただ激ウマということのみが感想でした。

ちなみに、下記のシャシリクの画像を見ていただくと肉と肉の間に何か挟まっているのが分かると思いますが…なんとこれ、脂身。あたかもネギま串のネギの如く、肉の間に脂身が鎮座しています。たぶん役割的にはネギま串のネギと同様、肉の間のお口直しなんだと思いますが、かたやお口をさっぱりさせるネギ、かたやお口をオイリーにする脂身と、日本とウズベキスタンの食文化がいかに違うが分かりますね。

ちなみに、この脂身も炭火で焼かれており、何とも言えない風味で美味!…ですが、私にはちょっと重たすぎて、いくつかをラグマンの残り汁の中に沈めたのは内緒です…(それ以外はすべて完食しました)

中央アジア(というか恐らくロシア含む旧ソ連諸国)のシャシリクは、日本人が想像する串焼きと比較するとかなりビッグサイズです。私はこの辺りの感覚が分からず2本頼んでしまい相当な量の肉塊が出てきたので、皆さんウズベキスタンでシャシリクをオーダーするときはサイズ感を気を付けましょう。

それでは!!!!!

コメント

タイトルとURLをコピーしました