【トルコグルメ】ユスキュダルで“引き裂かれた腹”なる料理をいただいた話

アジアの西端とヨーロッパの東端に跨るトルコ共和国。
地理的にも離れている中央アジアとトルコは接点が無いように見えて、実はトルコ人は何世紀も前に中央アジアからアナトリア半島(今のトルコ共和国の位置)に西進してきたという歴史があるそうです。つまり、中央アジアとトルコはある意味でパラレルワールド…という訳でトルコについても少し触れてみようと思います。

かつての君主「アブデュルメジド1世」の命による、ボスポラス海峡に佇むオルタキョイモスクを臨んで

串焼き料理やパンなど、トルコは中央アジアと共通点はあれど、今のアナトリア地方に移動するまでに吸収したと思われるイランやシリアなどの中東グルメ、ギリシャやプルガリアなどの東欧グルメの影響を多分に受けたり、山あり海ありの豊かな自然によって、驚くほど食材や調理法が多彩です。

ケバブの専門店やピザの専門店も良いですが、日本の小鉢系定食屋みたいに、色んなおかずをまとめてトライできるところは無いものか…と探していたところ、良い感じの定食屋を見つけたので、トルコの家庭料理についていくつか紹介したいと思います!
※当記事の情報は2023年当時のものです。トルコリラ=円換算は目安です

今回行ったお店とトルコの食堂・ロカンタについて

まず最初に、今回トルコ家庭料理をいただいたお店の紹介をさせてください。名前はHatice Anne Ev Yemekleri(ハティジェ・アネ・エヴ・イェメキケリ)で、イスタンブールのアジア側のユスキュダル地区にあり、ヨーロッパ側から見ると、新市街地の対岸となります。

お店の名前を直訳するど、「ハティジェお母さん(Anne)の家庭(Ev)料理(Yemekler)」になります。ハティジェさんがどんな人かは存じませんが、きっと美味しい家庭料理を作るんだろうな…という雰囲気が漂って来るような気がしますね!

ちなみに、このお店は通り沿いの建物の2階に位置しますが、2階部分のひさしをよく見ると、店名と共に、中央アジアでもお馴染みの蒸し餃子、“マントゥ(Mantı)”の文字が見えます。もしかするとマントゥが看板料理なのかもしれませんね。俄然期待が高まります。

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ウズベキスタンでマントゥ(マンティ)を実食した際の記事はこちら!ちなみにトルコのマントゥは小ぶりな餃子をスープの具材として食べる、中央アジアのマントゥは巨大な小籠包のようなものをそのまま食べる、といった違いがあるそうです

階段で2階に上がり、扉を開けて入店すると、先ず目に入ってくるのは沢山のお鍋や深底フライパンの数々。この中から食べたい料理を選んで注文するシステムのようです。

トルコではこのように、予めディスプレイされた出来合い料理を指さし注文するシステムの食堂が多数あり、これらのことをロカンタ(Lokanta)”と呼びます。恐らくこのお店もその一種だと考えられます。

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ちなみにロカンタ(Lokanta)という言葉は、「食事を提供する宿」というような意味合いを持つイタリア語の単語、“ロカンダ(Locanda)”から来た借用語のようです。アラビア語やペルシャ語からの借用語が多いトルコ語ですが、ヨーロッパ方面、特にイタリアから単語を拝借するなんてイメージが無かったので意外でした…

お店のおじさんがそれぞれの鍋の蓋を開けて料理を見せてくれ、必要に応じて温めなおしたうえでサーブしてくれます。

促されるままにカウンタータイプの席につきましたが、お店が2階にあるため、カフェが立ち並ぶ通りや、その奥に見える海の様子を目の前に臨めるという、なかなか乙な環境で食事をいただくことができます。
失礼ながら、イスタンブールってこんな爽やかな街だったのか…!なんて新しい発見がありました。

トルコ秘蔵のナス料理「ナスの腹裂き」ことカルヌヤルクについて

このような、ある意味ビュッフェ形式のランチは采配の妙が求められます。更にここは日本から遠く離れたトルコ、失敗したら二度目は無いということで、慎重な検討を重ねて決定したラインナップは、メインディッシュにナスのひき肉詰め、そしてアーティチョーク、バターライスの3点セットになりました。

これぞ、トルコ風定食です。主食・主菜・副菜と、我ながら良い感じの采配ができたのではないでしょうか。と自画自賛してしまうほどの面構え。早速いただきます。

ここでの主役はなんと言っても大皿の直径に迫らんとする巨大ナスにひき肉がつめられたこの料理。見た目のインパクトも抜群なので一目見て注文したいと思っていました。

この料理の名は“カルヌヤルク(Karnıyarık)”。とろっとろに煮込まれた巨大ナスに切れ目を入れて、(恐らく)トマトベースで煮込まれたひき肉がぎっしり詰め込まれた料理です。

ちなみにこの“カルヌヤルク”なる料理、トルコ語を直訳するとカルン(Karın)”=腹ヤルク(Yarık)”=引き裂かれた、となるので、「腹が引き裂かれた」というなかなか過激な名称です。この記事では便宜上「ナスの腹裂き」と呼ぶことにしましょう!

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ちなみにトルコ語では、「○○を」のように目的語化する場合は、名詞の語尾に“ı”を付けることが多いので、“Karın”(腹)を「腹を」とするには“Karını”となりそうなところ、どうやらrの次の“ı”が消えて“Karnı”となるようです。口語的にその方が言いやすいんでしょうか。カルヌヤルクは“Karnıyarık”であって“Karınıyarık”のミススペルではないんだよ、という言い訳でした…

それにしてもこの「ナスの腹裂き」、味もしっかり効いてて、ここが日本だったら白米が進み過ぎるであろう代物です。ちなみにナスはとろとろ過ぎてスプーンで切れます。歯は要りません。
日本では「ピーマンの肉詰め」はあれど、「ナスの肉詰め」はなかなかお目に掛かれないのではないでしょうか。あまりの旨さにガッツポーズものでした。

もうひとつのナス料理「坊さんの気絶」ことイマーム・バユルドゥについて

ところで、私はお店で「ナスの腹裂き」を見たときに、最初は他のトルコ料理なのかと思ったのでした。そう、知る人ぞ知る「坊さんの気絶」ですね。
これもまたナスを使ったトルコ料理名で、ふざけているようでホントの名前です。トルコ語では“イマーム・バユルドゥ(İmambayıldı)”と言い、文字通りイマーム(İmam)”=お坊さんバユルドゥ(Bayıldı)”=気絶した、となります。

料理自体は「ナスの腹裂き」と同様にナスの詰め物ですが、こちらがひき肉なのに対して「坊さんの気絶」の方は刻んだトマトと玉ねぎを詰めてオリーブオイルで煮た料理のようで、完全に野菜オンリーの料理のようです。

GeoO, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

この名前の由来は諸説あって、坊さんが妻の手料理(ナスの野菜詰めオリーブオイル煮)を食べた時に美味し過ぎて気絶した、食材が高価すぎてショックのあまり気絶した、オリーブオイルが尽きてこの料理が食卓に並ばなくなったことに絶望して気絶した、などなど…トンデモ説が飛び交っているようです。

とにかく、「坊さんの気絶」については日本でもひそかに有名で、ネットで検索すると日本語サイトでレシピが結構出ていたりします。
そんなこともあり、私はお店で店員の方に「ナスの腹裂き」のことを、「これはイマーム・バユルドゥですか?」と自信満々に聞いたところ、無慈悲に否定されてしまいました。
でも、そのおかげで「ナスの腹裂き」の存在を知れたので結果オーライです!

まとめ

今回頼んだものは、ナスの腹裂き(カルヌヤルク)、トルコ風ピラフ、アーティチョークのソテー、ブドウの葉っぱ巻き(ヤプラク・サルマス)、オクラ料理(バーミヤ・イェメイ)でした。
当然ながらとてつもない量なので2人でいただきましたが、これら全部でお値段400リラ(約2,200円)でした。

ここユスキュダル地区はイスタンブールの中でもオシャレなエリアで、映えるカフェを求める若者たちや、潤ってる人々の自宅が密集してそうな、そんな雰囲気ですが、そんなエリアの目抜き通りでいただくランチとしては、まあまあ妥当な金額なのではないでしょうか。(日本だともう数百円くらいはしそうですね)

それにとにかく味は間違いなしでしたし、量も多くてしっかり満腹になるし、イスタンブールのヨーロッパ側で広がる喧噪から逃れる意味でも、フェリーで対岸のユスキュダル地区で散歩がてらランチというのも乙なイスタンブールの楽しみ方ではないでしょうか!

ユスキュダルでは一般的なイスタンブールやトルコのイメージとは異なるので映え写真も撮れます

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