ウズベキスタンがラテン文字化に本気を出してるらしい話について

興味

以前、カザフスタンのカザフ語におけるラテン文字化(所謂ローマ字のこと)の計画についての記事を書きました。
※2021年現在、絶賛進行中

そのお隣で、同様にアルファベットのラテン文字化に苦慮している国があります。ウズベキスタンです。

これを読んで、「あれ?ウズベキスタンのウズベク語ってラテン文字じゃないの?」と感じた方、その違和感は正しいです。
何故なら、そもそもウズベク語は1993年に公式にラテン文字に変更されているからです。

現地の案内板。上がウズベク語、下が英語。

しかし、そんなウズベキスタンが2023年までにウズベク語のラテン文字化を実行する決意をしたというニュースが、2020年に突如として発せられました。

…ちょっと何を言っているのか分からないかも知れません。

事実としてウズベキスタンは、かつてのウズベク語ラテン文字化から4半世紀以上経った今になって、再度ラテン文字化を決意したという不思議な状況に陥っています。

そんなウズベク語をめぐる現状について気になったので、2019年に私がウズベキスタンで見たり聞いたりしたことも交えて記事にしてみました!

ウズベキスタンの文字の変容の歴史

ウズベク語を含む近隣諸国のの言葉たち(カザフ語、キルギス語など)は遊牧民だった歴史から、古来より文字を持たなかったと言います。

日本が中国から仏教と漢字を輸入したように、彼らもアラブやペルシャとの交易を通じてイスラム教とアラビア文字を取り入れ、1900年代初頭まではアラビア文字を利用していたそうです。

その後、中央アジアがロシア及びその後のソ連となってから独立に至るまで、ウズベク語の文字はアラビア文字→ラテン文字→キリル文字と変容してきたわけですが、そのあたりはカザフスタン含む近隣の中央アジア諸国と全く同じ運命をたどっています。

カザフスタンの状況については下記記事に記載しています!

しかし、現在に至るまでキリル文字を保持し続けているカザフスタンやキルギスタン等の周辺諸国とは状況が異なってきます。
ウズベキスタンは独立後すぐの1993年に、ウズベク語をキリル文字からラテン文字に変更する決断を下したためです。

更に、ロシア語を公用語として位置付けているこれらの国々とは異なり、ウズベキスタンはウズベク語のみを唯一の公的言語と定め、ロシア語には公的地位を与えていません。

このように、ウズベキスタンがロシア語及びキリル文字に対して大胆な政策を取れるのは、文化的にも地理的にもロシアにそこまで影響を受けていないことが理由だと思います。
そのあたり、ロシアとながーい国境を接する北の隣人カザフスタンや、経済的に依存しているとされる東の隣人キルギスタンとは事情が異なりますね。

では、ウズベキスタンの街中からはソ連時代と打って変わってロシア語が無くなり、ラテン文字のウズベク語で溢れているのでしょうか?
残念ながら、答えはノーです。

私が2019年にウズベキスタンを訪れた際は街中はキリル文字だらけでした。
ラテン文字変更からそろそろ4半世紀が経とうとしているというのに何故このような状況なのでしょうか?

2019年時点でキリル文字だらけだったウズベキスタン

上記の通り、1990年代前半にウズベク語を唯一の国家語と定め、ロシア語の公的地位は無くし、ウズベク語のキリル文字も廃止し、ウズベク文化無双状態のウズベキスタン。

それから4半世紀以上が経った2019年時点に私が現地(タシケント、サマルカンド)を歩いてみた感じでは、まだまだキリル文字が現役、というか寧ろメイン?という印象を受けました。

イケてる若者向けショップはロシア語率高い気がします

状況その1:利用頻度が高いロシア語の存在

ウズベキスタンの街中にキリル文字が溢れている理由のひとつとして、ウズベク語ではなくロシア語の使用頻度が高いことが挙げられます。

というのも、ウズベキスタンは名前に反してウズベク人以外の住民が沢山居住する多民族国家であり、ロシア系住民を中心にロシア語を母語とする人口が今でも1割ほど(諸説あり)存在するようです。

更に彼らはウズベク語をあまり、もしくは殆ど理解しないことが多く、逆にウズベク人はウズベク語のほかにロシア語を話せることが多いようです。

そのため、ウズベキスタン人全体へ向けたお店やサービスについてはロシア語も併用、もしくはロシア語のみで書かざるを得ない状況があります。

UMIT
UMIT

ざっくりとではありますが、ウズベキスタンではこんな感じの状況になっているみたいです。
※典型例です。誤りがあればそっとご指摘ください…

  • ウズベク系ウズベキスタン人→ウズベク語とロシア語を理解する
  • ロシア系ウズベキスタン人→ロシア語を理解する(ウズベク語×)
  • その他のウズベキスタン人→ロシア語と自民族の母語を理解する(ウズベク語×)

また、レシートの記載内容や商品パッケージの説明書き等、企業活動が間に入るとロシア語オンリー率が高くなるような気がしました。
様々な製造品やテクノロジーはロシア資本が強いんでしょうかね。

状況その2:いつまで経ってもキリル文字を使われ続けるウズベク語

本質的にはこちらの方がより大きな原因かも知れません。

キリル文字を使用するロシア語が街中に溢れていることは前述の通り、多民族国家たるウズベキスタンではある程度仕方のないことと思います。
しかし、問題はウズベク語であっても未だにキリル文字が使用されて続けていることです。

私たちがウズベク語系のサイトを見ると、当然ながらラテン文字になっています。Wikipediaウズベク語版も然りです。

また、「地球の歩○方」などのガイドブックにも、ウズベク語はラテン文字で表記してあり、「公用語はウズベク語、しかしロシア語も広く通じる」のような書きっぷりとなっています。

これを見ると、あたかもキリル文字=ロシア語、ラテン文字=ウズベク語であるかのように見えますが、実態はキリル文字であっても、ロシア語だけでなく、結構な割合でウズベク語の場合もある状況です。

これは少し想像してみれば致し方ないことで、親と子で教育を受けた文字が違うということになるのですから、文字転換は大変なことです。
日本に置き換えてみても、もし今後旧字体(台湾や香港で使われる繁体字)を使えと言われても、街中から新字体漢字が中々姿を消さないことは容易に想像がつきます。

しかし、文字の切り替え後から25年経った今でも、公式の流通通貨ですら未だにキリル文字版が流通しているところを見ると、色々と根深い問題があるように感じてしまいます。

ウズベク人はどちらの文字で認識しているのか?(個人的に聞いてみた)

ソ連時代に教育を受けた世代がいつまでもロシア語・キリル文字に拘ることは容易に想像が付きますが、そこは独立から早30年、ウズベキスタン独立後に教育を受けた層はどのように見なしているのでしょうか。

私はラッキーにもウズベキスタン滞在中の列車移動でたまたま同室になったウズベク人と話し込む機会を得ましたので、このことについて話を聞いてみました。

彼は当時30歳前後くらいの年齢で、恐らく文字切り替えの決定の直後くらいに教育を受けていたものと思われますが…

「ウズベキスタンてラテン文字とキリル文字が混在してて難しくない?」

ウズ「キリル文字はロシア語だよ。ラテン文字なのがウズベク語」

「でもウズベク語でもキリル文字で書いてあるとこ多くない?」

ウズ「・・・・・・」(多分通じなかった)

ということで、お互い英語にそこまで慣れていないことや、他にも話したいことがあったのでこの話は流れてしまいましたが、少なくとも若きウズベク市民たる彼はウズベク語=ラテン語と認識しているようでした。

しかし、後になって彼のインスタグラムの投稿を見てみると、がっつりキリル文字(ウズベク語)で投稿してて、キリル文字の呪縛を感じましたね…

UMIT
UMIT

ラテン文字教育が確立した(と思われる)後に育った今の20代以下であれば状況が異なるかもしれませんね!

本題とは全然関係ありませんが、ウズベク人の彼には何とドライフルーツ・ナッツ盛り合わせをいただいてしまいました。感謝してもしきれません

まとめ:ウズベキスタンの計画の今後に注目

以上、4半世紀以上前にラテン文字に切り替えたはずのウズベキスタンが再びラテン文字変更を計画していることについて、その理由と現状、そしてウズベキスタンの人はウズベク語の文字をどう捉えているのかについて記載してみました。

ウズベキスタン政府はこの計画の実行期日を、最初のラテン文字切り替えから30年後の節目となる2023年に設定しています。

しかし、国内を見ると(少なくとも2019年時点では)街中はロシア語とキリル文字ウズベク語で溢れており、完全移行できるのか?と突っ込みたくなる気持ちが無いでもありません。

今後ウズベキスタンが、この期日までにプロジェクトを実現することができるのか?今から目が離せませんね!!

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