頑張ってラテン文字化を達成したいウズベキスタンの苦悩

興味
Akhemen, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons

90年代にラテン文字化(所謂ローマ字です)されているはずのウズベク語について、ウズベキスタンが再度ラテン文字化すべく奮闘しているらしいという話について、以前調べてみたことがありました。
※文字変更における背景などは下記記事をご覧ください。

それにしても、90年代にラテン文字化が既成事実化されているはずのウズベキスタンにおいて、未だにこのような話が出ているとは驚きです。

ウズベキスタンは西側諸国基準ではそれなりに強権的な国家と言われていますが、それをもってしても慣れ親しんだ文字を変えてしまうということは、相当な困難を伴うこと(か、相当締め付けないと達成不可能)であると分かります。
※2021年現在、2023年元旦に完了と発表されていますが、まだ予断は許さない状況…

しかも、ウズベキスタン政府はただただラテン文字化を再推進しているだけではありません。
実はこのタイミングで一部の文字変更を検討しているらしいのです。

ということで、今回はウズベキスタンの文字移行プロジェクトのうち、変更される文字たちに焦点を絞っていきます。

どさくさに紛れて変更される文字たち

今回のタイミングで変更されようとしている文字は下記の通りです。

キリル文字ラテン文字・現(1993~)ラテン文字・新(2023?)日本語の音で表すと…
Ў ўOʻ oʻŌ ōウっぽい「オ」
Ғ ғGʻ gʻḠ ḡ喉の奥で出すガ行
Ш шSh shŞ şシャ行
Ч чCh chÇ çチャ行

ラテン文字を本気で普及させる!と意気込んでいる(と思われる)この時期に敢えて文字を変更するという行為は、ある意味矛盾しているというか、新たな混乱を生みかねないを感じます。

しかしこのような決断に至ったということは、上記の文字たちはこのままでは普及が難しいと判断したのでしょう。
これらの文字についてはこの25年間運用してみて失敗だったと判断されたという見方もできます。

修正対象となったこれらの文字は、通常のラテン文字アルファベット1文字では表現できなかったものばかりですが、文字修正にあたってはどのようなドラマがあったのでしょうか。

せっかくなので、ウズベキスタン政府の意向を想像しながら見てみましょう!

Ş、Ç:近隣諸国の成功事例を取り入れるスタイル

日本語で言うところのシャ行を表すŞチャ行を表すÇは、現在はSh、Chとして2文字で表しています。日本語のローマ字表記と同じですね!

これがなぜ問題になり得たかというと、キリル文字ではそれぞれШ、Чと1文字で表していたため、キリル文字とラテン文字で文字数が変わってしまうのです。

現地で見つけた看板ですが、一番上にあるウズベキスタンの国民食・オシュ(プロフ)だってキリル文字では2文字(ош)なのにラテン文字では3文字(osh)になってしまいます

大問題かどうかは分かりませんが、下記の簡単な例文で検証してみようと思います。

※ウズベク語はまったり勉強中です。もし当記事内に間違いを見つけたり、アドバイス等あればそっと教えていただけますと幸いです…

彼は 私より 歳が 若い

U mendan yoshi kichik
ウ メンダン  ヤシ  キチック

上記の例文を使うと…

У мендан йоши кичик … キリル文字時代

U mendan yoshi kichik  … 現行ラテン文字

U mendan yoşi kiçik  … 新ラテン文字

いかがでしょうか?
致命的とは思いませんが、文字数が1対1にならないことにストレスを感じるとしてもその気持ちは理解できます。
ここは、特殊文字の力を借りて1文字に戻そう!という意志が働いているのかもしれません。

更にこれらの文字は、言語的に近しい関係にあるトルコ語ですでに使われています。
旧ソ連繋がりでは、お隣トルクメニスタンと、その更にお隣アゼルバイジャンもこれらの文字を採用しているため、すでに成功事例があるということも大きいのでしょう。

Laika ac, CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons

独自路線を貫いているように見えるウズベキスタンですが、文字改革を成功させるために、これらの国々の良いところは取り入れよう!という判断になったのかもしれませんね。

Ō、Ḡ:あくまでもマイペースを貫き通すスタイル

ウズベク語の文字における最大の特徴というか謎は、Oʻ、Gʻにあると言っても過言ではありません!(過言かも知れませんが)

日本語で言うところのウとオを混ぜたようなと、喉の奥で発音したようなガ行(フランス語のrとか言われます)であるは、ウズベク語ラテン文字の中でもひと際異彩を放っていて、アルファベットにアポストロフィを付けたような形になっています。

単語の中でアポストロフィが出てくると、英語を見慣れている我々としては何かの省略系か?と考えてしまいますが、れっきとした1文字です。
Oʻに至っては母音文字のひとつのなのですから不思議です。

もともとキリル文字時代にはそれぞれЎ、Ғという固有の文字が割り当てられていました。
これらはそれぞれУ(ラテン文字ではU)、Г(ラテン文字ではG)の亜流文字であることが分かります。

このように標準アルファベットでは対応できない文字については、特殊文字が導入されがちな気がしますが、ウズベキスタン政府は違いました。
それぞれの文字に「ʻ」を付けるという、ある種単純かつ珍しい方法で解決を図ったように見えます。

UMIT
UMIT

Sh、Chについても、当時は特殊文字の導入を避けたいが故の判断だったのかもしれませんね!

特殊文字を導入しなければ、IT関連分野などでウズベク語のために新しい文字を増やさなくていい、英語キーボードをそのまま使えるなど、色々とコストが少なさそうです。
ただしその半面で、アポストロフィが入るとネットで検索し難い、SNS上でハッシュタグ化できないなど、お隣カザフスタンも抱えていた共通の課題にぶつかります。

再び登場の看板ですが、上から2行目の中央アジア風スープのショルバ(шўрбо)も、3行目の麺料理ウイグル風ラグマン(уйғур лағмон)も、ラテン文字にするとshoʻrbo、uygʻur lagʻmonとなり、違和感が増してきます

なお、お隣カザフスタンでは一旦アポストロフィ案が考慮されたうえで、すでにボツとなっています。
ウズベキスタンにおけるラテン文字の定着状況を横目で見つつ、ボツにしたような気がしてなりません…。

そんなウズベキスタンですが、このタイミングで遂にこれらの文字にメスを入れる決断をしたようです。

アポストロフィ付きのOとGはそれぞれ頭に横棒を付けた形の特殊文字ŌとḠに変更となり、特殊文字を使ってでも利便性を高めようとしたのでしょうか。
ラテン文字化への本気度が伺えますし、下記の簡単な例文で検証してみようと思います。

これは 私の 息子

Bu mening oʻgʻlim
ブ メヌング オグルム

上記の例文を使うと…

Бу менинг ўғлим … キリル文字時代

Bu mening oʻgʻlim  … 現行ラテン文字

Bu mening ōḡlim  … 新ラテン文字

いかがでしょうか?
これは1文字ずつ対応されたということだけではなく、アポストロフィが無くなったことで、入力するのも読むのも地味に違和感があった現行時代よりも可用性が増したような気がしています。

おわりに:ウズベク語はトルコ語系言語の文字連帯に加わるか?

以上の様に現在ウズベキスタンでは、ラテン文字化の完了と文字そのものの修正を同時進行するというなかなかの離れ業をやってのけようとしています。
当記事では、文字修正案について考察してみました。

発表された変更案を見ていると、他のトルコ系言語の文字と同様の文字を採用したケース(Ş、Ç)とそうでないケース(Ō、Ḡ)があります。

後者のケース、つまりウズベク語独自の文字を採用したものについて、例えばŌについてはトルコ語、トルクメン語、アゼルバイジャン語、カザフ語(最終案)ではÖを、Ḡについてはトルコ語、アゼルバイジャン語、カザフ語(最終案)でĞを、それぞれ取り入れています。

Kh. Mirzoyev./Azermarka, Public domain, via Wikimedia Commons

もちろんこれらは全てが全く同じ音を表すわけではありませんが、外野から見るとどうせ特殊文字を使うのであれば同じ文字の方が良さそうな気がしますが、言語的・文化的に共通点が多く、ご近所国家とはいえ(それ故に?)、独立したウズベキスタンとしてのプライドがあるのかもしれません。

とはいえ、ウズベク語の文字改革についても本当に残り5年以内に完了するのかも分かりませんし、アルファベット一覧についても、今後追加の変更があるかもしれません。

今後の効率性や一体感などを考慮してトルコ語に寄った文字にするのか?今のままの案で貫き通すのか?はたまた予想だにしない隠し玉を用意しているのか?
今後のウズベキスタンから益々目が離せませんね!

それでは!!!!

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