北トルキスタン?ロシアにある中央アジア?ロシア内共和国の魅力について

興味

ロシアの都市としてまず思い浮かぶのは、モスクワやサンクトペテルブルグのような、ヨーロッパ都市だと思います。

実際、上記の2都市が人口規模としてはずば抜けており、ロシアと言えば、あの2都市に代表されるヨーロッパ的なイメージが強いですよね。

しかし、日本のお隣にまで届く超広大な国土を有するロシアの7割以上は地理的にはアジアに位置し、さらにカザフスタンとの7,644キロにもわたるとてつもなく長い国境線(北海道の最北端・宗谷岬と沖縄県那覇市を直線で結んだ距離を、1往復半!)を有するロシアのこと、国内には中央アジアを感じさせる土地が沢山あります。

中央アジア地域のことを歴史的にトルキスタンと言いますが、ロシアの中の中央アジア、いわば北トルキスタンについて解説していきます!

※実際には北トルキスタンという言葉はありません

トルキスタンについて

まず、「トルキスタン」とはペルシャ語で「トルコ人の土地」という意味とされています。

「~エスターン(-estān、ـستان)」で「~の土地、~が多い場所」などという意味となり、現在の中央アジア5ヶ国や、中国・新疆ウイグル自治区など、歴史的にトルコ系民族が多く住んできた土地を指してトルキスタンと呼ばれてきたようです。

CIA, Public domain, via Wikimedia Commons
UMIT
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現在の国名も、ウズベキスタンであれば「ウズベク人の土地」、カザフスタンであれば「カザフ人の土地」という意味なんですね。

そんなトルキスタンですが、歴史の中でロシア勢力側の西トルキスタンと、中国勢力側の東トルキスタンに分かれることとなりました。

さらに、歴史的にトルコ系住民が多数住んできたアフガニスタンの北部を指して、南トルキスタンと呼ばれることもあるそうです。

ロシアの中には更に国がある?

現在のロシアには、日本で言うところの都道府県のような感じで州、地方、市などの自治体区分があり、そのうちのひとつに共和国というものがあります。国の中に国があるようなイメージになりますが、そのような共和国がロシア国内に20以上も存在しています。

Kudzu1, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons

この共和国の中には、中央アジア諸国の人々と共通する文化を持つものがあり、これらについてはロシアの中の中央アジアと呼んでも差し支えないのでは?と考えています。

それでは、ロシアにあってロシアでない不思議な国々を紹介します!

北トルキスタンの国々のざっくり紹介

ロシア国内の民族共和国には、トルコ系民族が主体となるものが10以上に及びます。

トルキスタン地域自体も西と東とで多彩な文化を保持していますが、北トルキスタンも西(ヨーロッパロシア)と東(シベリア)とで大分異なっています。
今回は代表的な3ヶ国に絞って、トルキスタン国家を紹介します。

タタールスタン: 北トルキスタン文化の中心であり、ロシア屈指の経済&観光都市

タタールスタン共和国(Татарстан)は、ロシア国内でロシア人に続く第2位の人口を誇るタタール人の民族共和国です。

地理的にはカザフスタン西部の北側に位置しており、基本的にはヨーロッパロシアに位置する場所となります。

その首都カザン(Казан)はロシア内第5位の規模をもつ巨大都市というだけでなく、ロシア第3の首都と言っていいほどの実力を持つ文化都市で、観光客も沢山訪れる人気都市です。

民族構成は、だいたいロシア人とタタール人が半々となっているようで、ロシア正教の教会やイスラム教のモスクが街中に共存する景観は他の都市ではなかなか見れない、ロシア内の民族共和国ならではのものです。

A.Savin, Ilya Tsvetkov, Денис Петьовка, NoPlayerUfa, TY-214, AlexTref871, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons

タタール人は中国新疆ウイグル自治区にも中央アジア諸国にも幅広く在住しているトルコ系民族ですが、漢字では「韃靼(だったん)」と表されていることがあります。
クラシックの名曲に「韃靼人の踊り」というものがありますが、これはロシア人作曲家のボロディンが、当時中央アジアに進出していたロシア情勢からインスパイアを得て作曲をしたものなのでしょうか。

なお、このタタール人、実は20世紀初頭に日本の地を踏んでいたそうで、国内最大のモスクである東京ジャーミーの設立・運営にあたったのが、当時ロシアから亡命してきたタタール人だったそうです。

また、ロシア国内で唯一タタール語が公用語とされており、街中にはロシア語とタタール語が併記されていたり、18世紀、19世紀に設立された歴史的なモスクが沢山現存していたり、タタール料理を提供する店が沢山あったり、ロシアにいながらタタール文化を体験できる街です。

Айдар Галиакберов, Public domain, via Wikimedia Commons

また、天然資源を中心に経済が潤っており、都市別の生活の質ランキングでは1位を取っているとか。
ロシアの中においてタタール文化をここまで発展さえていられるのも、この高い経済水準あってのことなんでしょうね。

都市別の生活の質ランキング、首位はカザン(ロシア) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース

なお、首都名のカザン(ウズベク語:Qozon、カザフ語:Қазан)とは、中央アジア諸語で料理に使う大鍋のことです。

Firespeaker, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons

なお、名前の由来については地形説や大鍋にまつわる寓話説など、諸説あるようです。

UMIT
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これは完全に余談ですが、ウズベキスタンでもカザン・カバブ(鍋で煮込んだ肉)という料理を見つけました!

ҚОЗОН КАБОБ=QOZON KABOBと書いてあります

バシコルトスタン:ロシア内ムスリムの中心地であり近代芸術の街

タタールスタン共和国に隣接するバシコルトスタン共和国(バシキール語:Башҡортостан、タタール語、ロシア語:Башкортостан)は共和国内の3割ほどを占めるバシキール人の民族共和国です。

人口比率ではロシア人が一番多く3割強を占め、対するバシキール人は3割弱ほどになりますが、タタール人も2割強在住し、首都のウファ(バシキール語:Өфө、タタール語:Уфа)は、お隣タタールスタンの首都カザンと同様にイスラーム文化とキリスト文化が調和する、北トルキスタンらしい都市です。

Rg102, AnnaVT, Тара-Амингу, Sealle, Скампецкий, Zmrzlinax42, Andytev, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons

宗教的には、ロシア内の全イスラーム組織をつかさどる「中央ムスリム宗務局(バシキール語:Мосолмандары Үҙәк Диниә назараты、タタール語:Мөселманнары Үзәк Диния нәзарәте)」がウファにあることもあり、市内にはモスクも多数あるそうです。

タタールスタンやバシコルトスタンのモスクは、曲線美を駆使したものではなく、一見するとキリスト教の教会の様に見えるものが多く、北トルキスタンの歴史を感じます。

Башҡортса: Сәйетғәлин Илшат Салауат улыEnglish: Ilshat SaitgalinРусский: Саитгалин Ильшат Салаватович, CC BY-SA 3.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/3.0, via Wikimedia Commons

ただし、カザンのように19世紀クラスの歴史を誇るモスクはそこまで多くなく、音楽フェスティバルや劇場、美術館などの近代芸術施設が非常に充実しています。

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とくに劇場についてはロシア語、バシキール語、タタール語専門のものがそれぞれ沢山あるようです!

バシコルトスタンは工業都市であり、そのためにバシキール人よりもロシア人の人口比率が高まったことで、芸術が発展したのかも知れません。
いずれにしてもタタールスタンとはまた違った楽しみ方ができる都市であることは間違いありません!

アルタイ共和国:大自然と秘境に囲まれた遊牧民の土地

アルタイ共和国(Алтай Республика)はタタールスタン、バシコルトスタンの西側地域とは打って変わって、こちらはシベリアど真ん中にあり、中国・新疆ウイグル自治区の真上にあたります。

このアルタイ共和国、北にはロシアのアルタイ地方(Алтайский край)、南には中国のアルタイ地区(阿勒泰地区)に囲まれてややこしい名称なのですが、このあたり一帯がアルタイ地域として存在してきたことの証左です。
また、ロシア人が半数強を占めますが、地域の原住民である遊牧民族アルタイ人も3割強が在住しているようです。

PANONIAN, CC0, via Wikimedia Commons

また、南西をカザフスタン、真南を中国のイリ・カザフ自治州、南東をモンゴルのバヤン=ウルギー・カザフ自治県と接していることから、一定数のカザフ人も暮らしており、アルタイ共和国の公用語はロシア語、アルタイ語のほかにカザフ語も公用語となっています。

ここは、イスラーム文化ではなく、遊牧文化というトルキスタン地域のもうひとつの顔を感じさせるもので、新疆ウイグル自治区の北部のような、東トルキスタン的大自然が広がっています。

例えば、共和国南部に広がるウコク高原(アルタイ語:Ӱкек Плоскогорье、カザフ語:Үкек Үстірті)はここが遊牧文化圏だということを感じさせてくれます。

Kobsev at ru.wikipedia, CC BY 2.5 https://creativecommons.org/licenses/by/2.5, via Wikimedia Commons

共和国南西、カザフスタンとの境に位置するベルーハ山(アルタイ語:Ӱч-Сӱмер、カザフ語:Мұзтау Шыңы)も、新疆北部同様、秘境中の秘境があり、超自然派ツーリズムが好きな人は一度は行きたい場所ですね!

AnnaMozhaeva0612, CC BY-SA 4.0 https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0, via Wikimedia Commons

終わりに

ロシア内の民族共和国の中から、トルキスタン文化を感じることができそうな国々を紹介しました!

中世のトルコ系民族の文化を体感したい方は、タタールスタンのカザンを中心とした、ヨーロッパロシアの共和国へ、圧倒的大自然と遊牧文化の香りを体感したい方はアルタイ共和国などのシベリア地域の共和国がお勧めです。

ロシアは歴史的にトルコ系やその他民族が持つ文化と繋がりが深いこともあり、本日紹介できなかった他の共和国や、ロシア内の他の地域にも興味深いスポットが沢山ありそうです。

日本人からすると、ヨーロッパロシアのモスクワやサンクトペテルブルグ、極東のウラジオストク以外の地域は中々イメージがつきませんが、是非行ってみたいですね!

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