ネット上で興味深いニュースを見かけました。
あまりにもさらっと書かれているので、なんだか来年から消費税を増税します的なレベルの話に聞こえますが、国民が日常生活で使用する文字を変えるというのは中々凄い決断です。
(もちろん、増税も重大なニュースですが…)
日本の状況に置き換えてみると、いきなり「○○年以降は漢字を旧字体(台湾や香港で使われる繁体字)に戻します」と言われるようなものでしょうか。
例えば「沖縄県」が「沖繩縣」になり、「青山学院大学」が「靑山學院大學」になる世界…
幸いなことに、私の名前に使われている漢字は影響がありませんでしたが、人によっては自分の名前も変わることになります。
気になる方は下記サイト(便利!)から見てみてください。
…と、いきなり話が逸れてしまいましたが、カザフスタンは只今文字変更プロジェクト真っ最中!ということで、下記のような疑問点が湧いてきました。
・何故文字を変えるの?
・文字を変えたらどんな感じになるの?
・現地の人はどう思っているの?
ネットで検索したり、実際にカザフ人に聞いてみたりしながら、この辺りについて調べてみました!
なぜ文字を変えるのか?
この壮大かつ(ある意味)強引なプロジェクトの理由について、カザフスタン政府が理由として述べていたり、推測だったり、ネット上の総評をまとめると下記の通りのようです。
理由その1 … インターネット・IT対応
ひとつ目は技術的な理由で、インターネットとローマ字アルファベットは切っても切れない存在であることです。
これについては、インターネット上のURLやIDおよびパスワードが原則ラテン文字(ローマ字)を代表として、日本人としても理解できることと思います。
その影響かどうかは分かりませんが、日本人の大勢がPCのキーボードで「かな入力」ではなく「ローマ字入力」を選択していますよね。
また、キーボードと言えば、カザフ語キーボードのレイアウトにも少し問題があるようです。
なんとなく似ているラテン文字とキリル文字ですが、ラテン文字が26文字なのに対してロシア語で使用されるキリル文字は33文字あり、実はキリル文字の方が少し文字数が多くなっています。
さらにカザフスタンでは、これにプラスしてカザフ語特有の文字を使うため合計42文字となり、キーボードが圧迫されるという地味に困る現象が発生しています。
カザフ語キーボードをiPhoneで表示すると文字が多すぎ&それぞれの文字のキーが小さくてミスタイプを誘発させます。
これをラテン文字化することにより、32文字にまで減らすことができるようですので、使い勝手も上がりますね!
理由その2 … 国際化の促進
国際的な言葉と言えば…真っ先に浮かぶのは英語です。
英語以外にも、話者が多いスペイン語やポルトガル語などはラテン文字を使用しています。
また、日本語を含む非ラテン文字の言語であっても、必ずラテン表記ルールが決まっています。(日本語のローマ字表記や中国語のピンインなど)
これは裏を返すと、ラテン文字化すればその言語を全く分からない人でもなんとなく発音が分かることになります。マレーシアやトルコなどはそのイメージです。
その結果、外国人にとってはカザフスタンへの渡航ハードルが下がったり、カザフ文化に親しみやすくなるかもしれませんし、反対にカザフスタン国民のラテン文字への親しみから、平均的な英語能力の向上に寄与するかも知れません。
この辺りは必ずしもラテン文字化とリンクしない部分かも知れませんが…
日本人を含む外国人としてキリル文字を見ると「これは…記号?」と感じてしまうこともありますので、ラテン文字化することのメリットはありそうですね!
理由その3 … ロシアの影響力を削ぐ?
少し過激と言うか、政治的な理由ですが、このような論調の記事もありました。
もちろんこのような理由が多分に隠れていることは間違いないと思いますが、個人的にはこれはあくまでも付随的なものかなと思いました。
つまり、この計画そもそもの目的はカザフ語やその話者の国際的利益拡大であって、その結果として国内のロシア語のシェアが下がっていくかもしれないしそれはそれで構わない。
ただ、最初からロシア語をどうにかしてやろうと思ってこの施策を打っている訳ではない…のかなと考えました。
とは言いつつ、ちゃっかりこんな強硬施策も打っているんですがね…
文字はいつ、どのように変わるのか?
この計画が発表された2017年当時、2025年までにラテン文字化を完了させるということになっていました。
しかし2021年になると、ラテン文字化の完了期日が2031年に延期されたようです。
そして、2023年には小学校の教育はラテン文字でのみ実施されるようになるとのこと。スタートが目前に迫ってきているという感じですね。
重要なのはどのように文字が変わるのか?ですが、2021年現在ではまだ公式な最終決定案が示されていないようです。
実情としては8割以上のアルファベットは確定しているものの、詰めの部分においては、計画が発表された2017年から実に毎年のように改定案が発表されている状況です。
改定案を何回も出すとそれだけ混乱が広がりそうなものですが、かなり生活に密着した改革ということもあって、政府も相当慎重に進めていることが伝わってきます。
カザフスタンの人はどう思っているのか?(個人的に聞いてみた)
実際にこの計画・状況に対してカザフスタンの人々はどう思っているのでしょうか?
ネットでこの手の話題について調べてみると、当然ながら賛否両論が出てきます。
これらコメントの統計を取ったことは無いのですが、これまで連絡を取ったことがあるカザフ人に対してこの件について個人的に聞いてみました。
皆さんちょい微妙な反応でした。
考えてみれば当たり前ですが、これまでキリル文字で教育を受けてきたわけで、文字が変わってしまうことに抵抗感を感じない人はいないでしょう。
これが私自分の身に降りかかったらと考えると、全く同じ感想が出てくると思います。
ある方は「慣れ親しんだ自分の名前の表記が変わってしまうのが嫌」と言っていました。
確かに、固有名詞、特に自分の名前の文字が変わることは、あたかも自分の名前自体が変わってしまったような、そんな感覚になりそうです。特に署名をするときなんか違和感凄そうですね。
キリル文字とラテン文字では、同じ文字・似た文字があるものの、原則としては異なる文字のため、抵抗感は尚更でしょう。
試しに、カザフスタンの著名人名や地名などで、どれくらい変わるのかを検証してみました。
※ラテン文字は、2021年時点の最新版を使用しています。参考として、ローマ字転写型(日本で言うところのローマ字表記)もつけておきます
カザフスタン共和国(正式国名)
- 変更前…Қазақстан Республикасы
- 変更後…Qazaqstan Respublikasy
- 転写型…Qazaqstan Respublikasy
こちらはカザフ語のラテン表記とローマ字転写型が全く同じ表記です。
たまたま同じになったのか、同じ表記になるようにラテン文字を設定したのかは謎です。
ディマシュ・クダイベルゲン(歌手)
- 変更前…Димаш Құдайберген
- 変更後…Dimaş Qūdaibergen
- 転写型…Dimash Kudaibergen
恐らくカザフスタン人で一番有名と思われる歌手。日本では知る人ぞ知る有名人といった感じですが、中国やヨーロッパでは割と有名な部類に入る方です。日本の音楽イベントに出演したこともあります。
やはり人の名前について文字変更における印象変化が大きく、ホントにこれが徹底されるのだろうかと心配になってきます。
ベシュバルマク(料理)
- 変更前…Бешбармақ
- 変更後…Beşbarmaq
- 転写型…Beshbarmak
カザフスタンを(お隣キルギスタンも?)代表する料理、ベシュバルマクです。
これを見ると、キリル文字→ラテン文字の変換よりも、ローマ字転写表記とカザフ語ラテン表記の微妙な違いの方に戸惑いが起こりそう(kとqとか、shと特殊文字のşとか…)と思いました。
まとめ:カザフスタンの文字変更計画の今後に注目
以上、カザフスタンでの文字変更計画についてその理由、変更の概要、そしてカザフスタンの人はどう思っているのかについて記載してみました。
既に記載したとおり、カザフスタン政府はこの計画の実行期日を2021年に後ろ倒しにしていて、2021年現在では未だに文字の最終案が決定していない状況となっています。
しかし、国内でも一部も企業などはラテン表記に変更しているようですし(前出のカザフ人談)、ネット上の写真を見ても街中にラテン文字表記のカザフ語が見られます。
そのことからこの方針自体が撤回されることは無いでしょう。
今後カザフスタンが、現在示している期日である2031年までにこのプロジェクトを実現されるのか?今から楽しみですね!!
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