最近ではウズベキスタンを筆頭に、日本でも徐々に一般的知名度が上がってきている中央アジア。
国名が「~スタン」で終わる国が多く、混合されがちなこの地域ですが、現在は5つの国家が存在し、それぞれ違った個性を持っています。
そんなこの地域の歴史と現在における旅行者的な魅力について、ざっくりと紹介します。
かつての西トルキスタン、現在の中央アジアについて
日本人にとって、今も昔も「シルクロード」とか「文明の交差路」とか、そんな感じのイメージを持たれている中央アジアですが、下記5ヶ国からなっています。
- ウズベキスタン
- カザフスタン
- キルギス(キルギスタン、またはクルグズスタン)
- タジキスタン
- トルクメニスタン
この地域は別名「西トルキスタン」とも呼ばれており、その生い立ちと共通事項について説明します。
「西トルキスタン」とは?
まず、「トルキスタン」とはペルシャ語で「トルコ人の土地」という意味とされています。
「~エスターン(-estān、ـستان)」で「~の土地、~が多い場所」などという意味となり、現在の中央アジア5ヶ国や、その東隣に位置する中国・新疆ウイグル自治区など、歴史的にトルコ系民族が多く住んできた土地を指してトルキスタンと呼ばれてきたようです。
現在の国名も、ウズベキスタンであれば「ウズベク人の土地」、カザフスタンであれば「カザフ人の土地」という意味なんですね。
そんなトルキスタンですが、歴史の中でロシア勢力側と中国勢力側に領土が分割され、東西トルキスタンとして区別されることになりました。
トルコ・ペルシャ系の王朝で栄えた時代を経てロシア→ソ連→中央アジア5ヶ国と遷移してきたトルキスタンの西側地域の歩みについて、ざっくりと紹介します。
西トルキスタンのざっくり歴史
中世ではアジアとヨーロッパを繋ぐ貿易の中継地点として大いに栄えたそうですが、日本が開国して間もない明治3年(1870年)に発行されたと思しき世界地図、「地学事始」にも「土留喜須丹(=トルキスタン)」としてその存在が言及されています。
しかしこの後すぐに西トルキスタン全域はロシアの配下となり、ソビエト連邦成立に伴って、そのままソ連の一部となります。
上記地図画像であるソビエト連邦の中で4,5,11,12,14が現在の中央アジアです。
ソ連時代の中央アジアは、日本を含む、所謂「西側諸国」の人々にとってはそこまで開かれることのない国々だったようです。
1990年代初頭にソ連が崩壊すると、中央アジア5ヶ国は、歴史上初めて近代国家としての独立を果たしました。
現在の西トルキスタン諸国の特徴
西トルキスタンの後を引き継いで独立した「スタン系国家」達は、その名前から厳格なイスラム国家の様に思われがちです。
実際、公式には住民の半数以上をイスラム教徒が占めるとされていますが、実はそこまで戒律が厳しくないことで知られています。
その理由は過去のロシア時代、ソ連時代の名残からと思われますが、5ヶ国共通で下記のような特徴を持っています。
- 街中のロシア語率が高い、国民の大半がロシア語話者
- イスラム教徒が多数派とされているが、戒律が緩くお酒飲み放題
- ヨーロッパ系住民が多く、ヨーロッパ的な文化が根付いている
現在においても5ヶ国ともロシア語の通用度が高いです。
例えばウズベキスタンで言えばウズベク語という国家語があるのですが、5ヶ国とも多民族国家であることから、必ずしも国民がウズベク語を話せるわけではなく、結果的に全員が分かりあえるロシア語が優先される、という状況が発生するようです。(特に都市部)
何にせよ、国民の過半数が基本的にバイリンガルというのは私たち日本人からすると不思議な気持ちになりますね。
宗教については、無宗教政策を謳っていたソ連時代の名残もあってか、名前の割には戒律がかなり緩いそうです。
お酒は普通に飲むようですし、女性であってもヒジャブなどで髪を隠している人はあまり見られません。(地域によりますが)
前述のように多民族国家であることから、イスラム教徒意外の人々が肩身の狭い思いをすることはまず無いと考えて良いでしょう。
私がウズベキスタンに行った時、地元のモスクを外から眺めていたら、中に入って写真を撮っていけと招き入れてくれました!
現在のスタン系国家5ヶ国の旅行者的見どころをざっくりと紹介
ここからは、現在の中央アジア5ヶ国について、ざっくりとした見どころを紹介します。
1990年代初頭に独立してからまだ30年ほどと非常に若い国々ですが、最近はウズベキスタンを始めとして日本でも徐々に知名度が上がってきていますね。
歴史的にトルコ系、ペルシャ系王朝が支配していたこともあり、イスラーム的な雰囲気を感じつつも、ロシア文化を色濃く感じられるという、他のアジア地域と比較しても、かなり異なる文化を感じることができると思います!
私個人はこれまでウズベキスタンしか行ったことがありませんが、他の国についても、いつか行きたいという希望を込めて紹介します!
ウズベキスタン:日本でも注目度爆上がり!シルクロード随一の観光大国
日本人にとっては中央アジア諸国の中で一番なじみがある国といえばウズベキスタンでしょう。
ここ数年は日本国内でもウズベキスタン単独のガイドブックが出版されたり、日本・ウズ共同制作の映画が公開されたりして知名度・注目度爆上がり中です!
人口は地域最大で、中央アジアの他の4ヶ国の人口を全て足した数ほどだそうです。
だからなのか、 日本でもたまにウズベキスタン人がメディア等で取り上げられていたり、ウズベク料理を提供する店もあり、国家としても文化としても地域内最大の知名度を誇るように思えます。
ちなみに内陸国に囲まれた内陸国である「二重内陸国」で、海とは無縁な国なのですが、その代わりに巨大な河川があることから砂漠地帯のオアシス都市が発達し、文化の中心地となったそうです。
このために、ウズベキスタンにはサマルカンド(Samarqand)、ブハラ(buxoro)、ヒヴァ(Xiva)といった、世界遺産登録された歴史的地区が多数存在し、中央アジアの観光地の中心となっています!
私は2019年にサマルカンドへ行きましたが、数々の美し過ぎる歴史的建造物、美味しい料理、外国人に興味を持って話しかけてくる人懐こい国民性など、全てにおいて最高でした!
カザフスタン:ロシアとの繋がりが強い中央アジアの経済的リーダー
中央アジアの北半分をすっぽり覆っている中央アジア最大の面積を誇るカザフスタン。 中央アジアの他の4ヶ国の面積をすべて足した数の、さらに2倍以上の面積を持ちます。
中央アジア最大というだけではなく、世界第9位であり、内陸国としては世界最大だそうです。大きすぎ!!!
首都はヌルスルタン(Нұр-Сұлтан)という都市なのですが、2019年まではアスタナ(Астана)という名称でした。
なんと、1991年のカザフスタン独立から30年近くに渡って任期を務めたヌルスルタン・ナザフバエフ初代大統領の退任を記念して、首都を改名したようです。
ちなみにそのヌルスルタン、旧首都のアルマティ(Алматы)に代わって1997年から首都となったのですが、この都市は日本人建築家の故・黒川 紀章氏が設計したもののようです。一国の首都の都市計画に日本人が関わっているという事実はとても嬉しいことすね!
この首都ですが、日本ではなかなか考えられない思い切ったデザインで、近未来的な建物がいくつも並び、一種の観光地となっているようです。
ちなみに中央アジアの中でも随一のGDPを誇るカザフスタンですが、その内訳は石油・天然ガス。所謂資源国です。
おそらく、それで得た財源をもとにここまでド派手な首都構築を推進で来たのかなあと思います。
資源国として、今後のSDGs時代をどう生き抜くのか?これからも目が離せないですね!
なお、経済的・文化的にはロシアとの結びつきが強く、国内のロシア系民族比率も中央アジア最大です。
2021年7月に行われた東京オリンピックの開会式で日本メディアの話題を集めたカザフスタンの女性旗手、オリガ・リパコワ氏(Ольга Рыпакова)は恐らくロシア系と思しき金髪のヨーロッパ系。
その一方で、2020年5月にオンライン形式で開催されたTokyo Jazz Fest 2020でもパフォーマンスを披露した、日本人にも多くのファンがいるグローバル歌手のディマシュ・クダイベルゲン氏(Димаш Құдайберген)はカザフ人で、日本人に近い見た目をしています。
その為、食文化も街並みも人々も、中央アジアにいながら一番ヨーロッパを感じることができる国かも知れません!
キルギスタン:山&湖の超大自然と蜂蜜が売りの自然派遊牧国
中央アジア諸国の東端に位置するキルギスタンは、日本の約2分の1ほどの面積の国でありながら、国土全体の40パーセント超を3000m級の山々が占めていたり、琵琶湖の約9倍(!)のサイズを誇るイシククル湖が存在していたりと、超自然派の国です。
中央アジア諸国が持たれがちな「砂漠」「シルクロード」「イスラム教」のようなイメージとは異なり、山岳地帯の遊牧民族国家、と言った方がしっくりきます。
その為か、中央アジアの5ヶ国中で唯一国名に「スタン」を付けずに「キルギス共和国」を自称しています。(日本もそれに倣っていますが、国際的にはKyrgyzstanという通称もあり)
そして、観光としてはシルクロード遺跡というよりも国土の自然を活かしたイシククル湖のビーチやトレッキングなど、自然派アクティビティを推進しています。ヨーロッパ人に受けそうですね!
日本人にとってのキルギスタンとは、カルディなどの輸入雑貨店などで販売していた「キルギスの白いはちみつ」や、 無印良品で知られる(株)良品計画との工芸品プロジェクトで知られる存在かも知れません。
タジキスタン:地域中唯一のペルシャ系国家・最小の面積、経済規模
タジキスタンは中央アジアの5ヶ国中唯一のペルシャ系民族であるタジク族が多数派を占めている国です!
東西のトルキスタンには名前の通りトルコ系民族が多数派となる国家・地域(中国の新疆ウイグル自治区含む)が集まっています。
何故ここにペルシャ系が?という気がしますが、世界地図を見ると、イラン~アフガニスタン~タジキスタンと繋がるペルシャ系国家ラインが連なっていることが分かります。
キルギスタンと同様に、国土の大半が山岳地帯となっており、国土面積は地域内最小となっています。
独立後の90年代は経済的混乱とともに内戦が続き、それが尾を引いてか今でも地域内最貧国となってしまっているようです。
更に、世界遺産もあまり存在せず、観光にもそこまで力を入れていないために、日本人からすると最も関りが薄い国かも知れません。
しかし、ペルシャ文化圏ということで、日本人の琴線に触れる観光資源は沢山あるような気がしています。
何にせよ、今後も深堀していきたい国ですね!
トルクメニスタン:中央アジア随一の独裁国家?天然ガスだだ流しの永世中立国
もしかすると、「中央アジアの北朝鮮」というキャッチーすぎるフレーズで耳にしたことがあるかもしれない、トルクメニスタン。
もともと強権揃いの中央アジア諸国の中でも、特に独裁国家色や職権乱用色が強く、そのせいもあってのキャッチフレーズなのだと思われます。
と言っても、世界第4位の埋蔵量を誇る天然ガスのお陰で経済的に豊かであることと、永世中立国(どの国とも軍事的同盟を組まない)である点で、北朝鮮とはだいぶ異なっていると思われます。
ただし、情報統制が強く、信頼できる統計的な情報があまり出回らないらしく、そのような面で北朝鮮と比較されるのかもしれません。
この国が統制という面で中央アジアの他の国々と異なっていることは、認定された現地ガイドを付けない形での個人旅行が禁止されていたり、街中に撮影禁止スポットが沢山あったりと、旅行という面でも表れています。
さらに、初代大統領の命で、首都のアシガバード(Aşgabat)に建設する建物は全て真っ白にするなど、確かに強権的な雰囲気を感じたりはします…
そのため、旅行をするハードルは、中央アジアどころか200余りある世界の国・地域の中でもトップクラスに高いらしいですが、冒険大好き系旅人であれば聞いたことがあるであろう「地獄の門」が有名な観光スポットとなっています!
天然ガス採掘中に誤って地盤沈下してしまい、有毒ガスの大気中の放出を防ぐために火を放ってから早40年…未だに燃え続けているらしいです。
アラビア半島の産油国や、同じ中央アジアのカザフスタンと同様に、今後は天然ガス一辺倒の偏った経済をいかに変えていくのか?について非常に興味があります。
経済のために観光客を遂に受け入れだすのか?目が離せない国ですね!
終わりに
西トルキスタンの地域概念と、現在の中央アジア5ヶ国についてざっくりと解説してみました!
もともと「トルキスタン」と一括りにされていた歴史から、現在でも5ヶ国で一括りにされがちですが、それぞれ個性的な旅行スタイルを楽しめる国となっています。
- ウズベキスタン → フォトジェニックな旧市街や歴史的建造物を巡りたい方
- カザフスタン → 近未来都市や大都市など、資源国の勢いを感じたい方
- キルギス → 山&湖の超大自然を全身で感じたい方
- タジキスタン → ペルシャ文化圏や山岳トレッキングで秘境を開拓したい方
- トルクメニスタン → アドベンチャー感を感じたい方
ここで気になる国があったら、是非インターネットで色々と調べてみてもらえると嬉しいです。
それではまた!
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